学生の頃、アルバイトで家庭教師をしていた。部活もしていて日々忙しい学生だった。しかし、先立つものがなく・・・やはり苦しい。授業料は親に出してもらっていたが、お小遣いは自分で稼がなくてはならなかった。学生ながら、遊びも忙しい(笑)お金はどんどんなくなった。家庭教師のバイトは、短時間で効率的だった。

最初に行ったご家庭は、大きなおうちだった。子どもは学力が低かった。その子に数学を週2回で教えた。とにかく効率よく簡単に答えを導かせるような方法を教えた。テストでの点を上げなくては!という目標があった。当時は特に何も考えていなかったが、成績を上げるために、私が呼ばれたのだとなんとなく自覚していた。教えたら誰でもすーっと分かるもんだと思っていた。でも、そんなことはなかった。スーッと分かるのなら、家庭教師はいらない。どうやったら、分かってもらえるのかな?どうやったらできるようになるのかな?と考えながらの毎日だった。あの手この手を使った。難しいことを言っても通らなかった。やさしくパターン化して教えたらいいと分かったのはかなりしてからだった。

楽しみはなんと言っても、途中で出してくださるケーキだ。ケーキを食べながら、色々なことを話した。彼女は絵を描くのが好きだった。アニメーションの仕事がしたいと夢を語っていた。部屋中に彼女の描いた絵が貼られていた。そんな話をしているときが楽しかった。私はただの近所のお姉さんになっていた。彼女の夢がかなうといいなぁと思った。少しぐらい絵がうまくても、そんなに簡単に行くものではないということがもうその時すでに分かっていたが、本気でそう思った。私にとっても心通わす素敵な時間だった。その上、ありがたいことに、こんな小娘に対しても家族の方は丁寧に応対し、感謝してくださった。